山本亜希メンタルクリニックのブログ ~千代田区 九段下より~ 2020年07月
(クリニックのFacebookに投稿した記事の一部改変、転載です)

2020年も折り返し地点を過ぎました。

これまでにない、なんとも濃密な半年間だったと思います。

1月に膝の手術のための入院、長期休診。
復帰後、世界中で猛威を振るう新興感染症。
移動や娯楽に制限を受けつつ、
不自由な身体や変わってしまった世界といかに向き合い、日々を過ごしていくべきか。
そんなことを考える毎日でした。
(おかげさまで膝は順調に回復して、
今は日常生活で不便を感じることがほぼない状態になっています!)

昨今の感染症に対する報道には、物申したいことが本当にたくさんあります。
でも、大きな声をあげることで
価値観や考え方の合わない人たちの攻撃を受けるのではないかという恐怖も拭えません。
それぞれの感じ方、それぞれの正義があるので本当に難しい問題ですね。

知識は人を勇気づけ、正しい方向に導いてくれます。
しかし、中途半端な見識や不十分な理解は逆に道に迷う結果を引き起こしかねません。

最近の一番強い違和感は、抗体に関する誤解の蔓延。

”抗体”の概念は
「外敵にとりついて自分を守ってくれる」と直感的に理解しやすく、頼もしさを感じさせるので、
独り歩きしやすい側面があるのでしょう。
しかし。「抗体があるから安心」あるいは「抗体がないから不安」という
誤った認識を持っている方が多すぎる現状に、強い危惧を抱いています。

「まだまだ抗体保有率が低い。
 だからこのあと第二波、第三波が必ずやってくる!」という誤解
をしている人が、
医師も含めあまりに多いことに驚きます。
人間の免疫システムは抗体によってのみ担われているわけではありません。
そして感染して抗体を産生するようになった個体においても、
それが一生涯の防御を担ってくれるという証拠も現段階では明らかではないのです。

コロナウイルスの大流行を経験し「恐れ過ぎず、油断しすぎず」のさじ加減を適宜微調整するために、
たくさん論文を読むようになりました。

ここ数年、雑誌に掲載される前の「査読前論文」を無料で公開しているデータベースが複数あります。
私の学生時代にはありえなかったことです。すごいなぁ!

査読前論文は最終的に誤りが指摘されたり、取り下げられたりすることもあるので
取捨選択にある程度の慎重さは求められますが

ここ1-2週間の間、複数の研究者が

●新型コロナに関しては、無症状感染者や軽症者は抗体が作られにくい。
 血液中に抗体が検出される期間もそう長くない。

●しかし、無症状感染者や軽症者で抗体が作られなかったケースの多くで、
 抗体を介さない「細胞性免疫」による免疫機構が働いている形跡が認められる。

●抗体だけを指標に判断すると、実際の感染既往者を少なく見積もってしまう恐れがある。

という報告をしております。
これは、「抗体保有者が多くなくても集団免疫は成立しうる」という仮説を支持するものです。

「交差免疫」という考え方もあります。
新しい病原体が体内に侵入したとき、過去に構造の似た病原体を撃退したことのある個体は、
既にもっている免疫を使って新しい病原体をも撃退できるという現象です。
ありふれた風邪のウイルスである、新型ではないコロナウイルスに感染した経験のある方の免疫システムが、
新型コロナウイルスにも有効であるという仮説も唱えられ、それを支持する研究結果も報告されています。

過剰に恐怖だけを煽る報道は、百害あって一利なしですよね・・・

免疫の役割、抗体の役割はこれからもっと明らかになっていくと思います。
その知見が、治療に役に立ち、私たちの平穏な生活の助けになるよう、正しく共有されていくことを祈っています。


2020.07.01 Wed l おしごと l top