山本亜希メンタルクリニックのブログ ~千代田区 九段下より~ 2020年を振り返って
急激な世の中の変化に誰もが直面せざるを得なかった2020年が
間もなく終わろうとしています。

振り返れば、昨年の今頃は
今とは別の意味で心穏やかでない日々でした。

右膝の「離断性骨軟骨炎」の治療のために
1月から2月にかけ1ヶ月の間、仕事から離れる予定でしたので
入院の準備に追われつつ、
留守の間に皆さまにおかけするご迷惑を最小限にするべく
紹介状や治療経過のサマリーなど
手首が腱鞘炎になりそうな勢いで書類の作成に勤しんでおりました。

それでも。
どれだけ入念に準備をしようと
担当医が1ヶ月入院をすることが患者さん達に与えるインパクトは
ゼロにすることなど到底できるはずもなく。
院長が戦線離脱するクリニックを守るスタッフの皆様のプレッシャーもいかばかりであったことでしょう。

今でも申し訳ない思いでいっぱいです。

幸い、手術は成功して術後の経過も良好、
予定通りに退院して業務に復帰することができました。

主治医の先生、病棟の看護師さん、リハビリ室の皆様、技師さんやクラークさん達、事務スタッフの方々
また同時期に入院していた同志のような皆様には
本当によくしていただき
なんの不安も不満もない、安定した入院生活を送れました。
ただただ、感謝するばかりです。

久しぶりに自分が「患者さん」の立場におかれることで
医療の仕事の温かさ、素晴らしさを改めて感じることができたのも大きな収穫でした。

クリニックに戻ったあとも
たくさんのご心配、ご不便をおかけしたにもかかわらず
患者さん達に温かく迎え入れていただけて
お気遣いの言葉もたくさん頂戴しました。

皆さまから受けた優しさを、今度は私も別の誰かにきちんとお返ししていけたらよいな、
そんなふうに思っています。




退院後、身体の回復はすこぶる順調でした。
しかし、冬の終わりから私達をとりまく世界がみるみるうちに形を変え始めます。

新興感染症の蔓延による社会の変化、生活の制限、娯楽の喪失、
人々の絆の分断。

こんな残酷な世の中でコンディションを保つことは容易ではありません。
辛い思いを抱えている患者さんに対して
自分が医師として十分な対応ができていないように感じられ、
今年の春から夏にかけては
自分の心も激しく右往左往していました。

目の前の患者さんの苦しみを和らげ、安心感を持ってもらえるように伴走するのが
医療の大切な役割だと
これまで信じて疑っておりませんでしたが
「こんな過酷な状況で私が手伝えることなど何一つないのではないか」
と、無力感が日に日に大きくなっていたのです。

大切なものとのかけがえない時間を奪われ
経済的な不安を抱え
未来への希望を見失っている方々に寄り添っていくには
わたしはあまりに未熟で力不足でした。

一介の町医者にできることなど
決して大きなものではございませんが
「一隅を照らす」という気持ちで
目の前の患者さんに対してはいつも真摯に向き合ってきたつもりです。

ところが、このコロナ禍で
多方面から急激な変化が起こり、先の見えない状況が数ヶ月に渡り続き
目の前が真っ暗闇すぎて
「なにをどう努力しようと、もう光など差してこないのでは…」
そう感じてしまい、何度も気持ちが萎れかけました。

そんな時、私を引き上げてくれたのは
入院生活で得た医療への思いや
待っていてくれた皆様の温かい言葉でした。

膝にメスが入った直後は、腫れるし熱は出るし
足を真下に下ろすと下半身に激痛が走り
脚がしびれてしまい、椅子にも5分と座っていられない状態でした。
そこからわずかひと月足らずで、自分の足で立って歩いて家に戻れたのは
「たくさんの方が自分の帰りを待っているのだから
早く元気になりたい」という強い願いや
自分自身の身体の回復力があり、
それをうまく引き出すような適切な治療とケアを提供していただけたからに他なりません。

「回復したい」という患者側の願い。
「よくなるためのお手伝いをしたい」という医療者側の願い。

この二つの望みが両方バランスよく循環して
医療は初めて成り立つもの。

医療者側が勝手に絶望して未来を黒く塗りつぶしてしまい
患者さんの願いに寄り添うことができないなんて
大変に失礼なことだと気づいてからは

今は先が見えなくても、
前を向いて、一歩ずつでも進んでいこう。

そう思えるようになりました。





なんだか、どんなに推敲しても
ちょっぴり湿っぽい文章になりお恥ずかしいです。
これも今の自分の偽らざる気持ちなので
ひとまずはこのまま綴っておきます。




困難な状況はまだまだ続きそうですが

どうぞ皆さま、
「正しい知識をもって、怖がりすぎず、油断しすぎず」
リスクとベネフィットのバランスのとれた冷静な行動をおとりください。

ひとりひとり、できることを積み重ねて。
次のお正月は気兼ねなく大切な人と笑いあえる、
平和な日常が戻りますように。

今年一年、ありがとうございました。
皆さまどうぞ良いお年をお迎えください。
2020.12.31 Thu l 診療 l top